お笑いの世界ではタイトルに「オチ」を持ってくるのは禁じ手であり、スベる要素の最たるものだと思うのだが、ここはあえてのタイトルにしてみた。
一般的に「常識」というものがある。王道というか、そうすることが当たり前ってヤツのことである。
大多数の人が「それはそうするものだ」と思い込んでいることが、世間の「常識」として定着して、そこら中に横たわって存在している。人とは違うこと、突拍子もないことをする人が「非常識」と認定され、後ろ指さされたり、陰でひそひそと非難されたりもする。かと思えば、その時点での「常識」よりも優れた手法とか技法が現出すると、ある程度の時間をかけてそれが世間に広まり、新たな「常識」として君臨する、なんてこともあったりする。
おそらく、新しいものやことが、徐々に「正解」に近づいていると、肌感覚でみんなが感じているからだと思う。それほど世間は移ろいやすく、軽い。それが誰にとってもいいことなのであれば、世の中が良い方向に進んでいるということなので歓迎すべきことなのであるが、「そんなん、どっちでもええやん」的なものやことですら、「常識」なのか「非常識」なのかの線引きで区別されることもあるので、ややこしい。
というかめんどうくさい。
例えば、先日何の気なしに見たこんな記事がある。
パスタをフォークだけで食べるか、フォークとスプーンを使って食べるかなんて、ボクの中の線引きでは「そんなん、どっちでもええやん」の最たるものである。しかも、この記事の主題は、そういう線引きしなければならない場面に出会った場合に、相手を傷つけることなく諭すためにはどんな言い方がいいか?という処世術の話であるので、パスタの食べ方の常識を語っているものではないこともわかっている。
だが、中の記事を読んでビックリしたのである。
質問者の「彼女」と思しき人は、彼氏がパスタをフォークだけで食べるのがマナー違反=非常識ではないか?という疑問を持っている。それをどうやったら正しい食べ方=フォークとスプーンを使って食べさせることができるかに腐心している様子。
まぁ、そういう女子の気持ちはわからんでもない。自分の大事な人が、世間とは違う非常識なことをしている場面に遭遇したら、それとなく訂正して正しい方向に導きたいというマウント上等な気持ちになるのもわからんではない。それはそれで構わない。何も文句はない。
ただ、驚いたのはその後。
続く「解説」と書かれた部分に、こんなことが書いてある。
じつは、パスタをフォークだけで食べてもマナー的にまったく問題ないという説も有力。どう指摘するかの前に、「自分の知識が『正解』とは限らない」という謙虚さや慎重さを持つことも大切です。
そうそう、そういう謙虚さをもって人と接することが円滑な人間関係を形成するんだよねー...って、おい!
「パスタをフォークだけで食べてもマナー的にはまったく問題ないという説も有力」だと?
おいおい、いつから「パスタをフォークだけで食べる」ことがマイナーな非常識扱いになったんだ?
そもそも、パスタ発祥の地である群馬県高崎イタリアで、パスタをフォークとスプーンで食べるっていうのか?
新婚旅行でイタリアに出向いた時、ミラノでもベネチアでもフィレンツェでもローマでも、パスタをフォークとスプーンで食べるイタリア人なんて見なかったぞ。
パスタってのは、まだ「スパゲッティ」とパスタの種類の一つで呼ばれていた昭和の時代に日本人が食べ始めたとされる西洋の食べ物で、あこがれて恋焦がれた西欧の食べ物を、敗戦国のニッポン人がこぞって食べ始めた頃はフォークだけで食べていたはずだ。ボクが子供の頃(昭和50年代)に、スパゲッティをフォークとスプーンで食べるニッポン人なんて存在しなかったはずなのだが...。たぶん、あれは日本人が密かに編み出した秘儀で、フォークだけでパスタをクルクルっとまとめることができない人が、スプーンを使うと簡単に一口大にまとめられるって始めたジャパン・オリジナル・スタイルなんじゃなかったっけか。効率的だし、なんとなくスマートだし、誰でも簡単に真似できるから、その後に広まったことも理解できるけど、いつから常識と非常識の逆転現象が起きてしまったんだろう?
その答えがタイトルにある。
そう、「世間の常識」とは「大多数の人がそうしているから」という不安定な無意識下にあるものであって、その均衡がいつ破られるのかはその時の神様の気分次第なのである。
それにしても、グローバリゼーション(死語)の時代に、世界の常識から外れたことを「常識」とする日本、ますます世界の潮流から見放されることになるが、それでいいのかニッポン人。フォークだけで食べられるのに、スプーンまで使ったら、洗い物が人数分だけ増えちゃって、お母さんが大変になるんだぞ。それでいいのか?
まぁ、それほど大騒ぎすることではないことは明らかなのだが。「こいつは使いようによってはちょっとしたネタになるぞ...グフフ♡」というスケベ根性から話を大きく広げている感は否めない。
しかもこの記事の本題も「マナー」とか「気遣い」に関することではない。
なのに、勝手に引用してごめーんね。